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東京高等裁判所 昭和50年(う)2089号 判決

本店所在地

東京都品川区五反田八丁目二番二号二〇一

株式会社香取事務所

右代表者代表取締役

香取啓亮

本籍

東京都新宿区市ケ谷左内町八番地

住居

千葉県千葉市東寺山町九三七番地の六

会社役員

香取啓亮

大正一〇年七月一八日生

右両名に対する法人税法違反各被告事件について、昭和五〇年九月一七日東京地方裁判所が言い渡した有罪判決に決し、被告会社および被告人からそれぞれ適法な控訴の申立があつたので、当裁判所は、検察官粟田昭雄出席のうえ審理し、つぎのとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は、被告株式会社香取事務所および被告人香取啓亮の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、被告会社代表者兼被告人香取啓亮作成名儀の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用するが、所論は、要するに、被告会社および被告人香取啓亮に対する原判決の量刑は重きに過ぎて不当である、というのである。

所論にかんがみ記録を調査して検討するに、本件は、被告人香取は不動産の売買等を目的とする被告会社の代表取締役として同社の業務全般を統括していたものであるが、不動産業界が常に不安定であるところから、いわゆる裏金を作りこれを被告人香取が営む他の事業の資金に供する等のため法人税を免れようと企て、昭和四七年一一月六日から同四八年一〇月三一日までの事業年度において三、二三一万六、二〇〇円の法人税を免れたという事案であつて、その方法は、中村昌子、中村孝らの仮名預金を設定し、第三者名義の領収書を交付するなどして所得を秘匿したうえ過少申告書を提出するといつたものであり、右のような本件逋脱の態様、逋脱金額などからみても、被告会社、被告人香取の刑責は決して軽いものではない。所論が指摘する栄興土地開発株式会社からの仲介手数料七、〇〇〇万円については同社において所得の申告を行なう約束があり、また株式会社東昌からの仲介手数料四、〇〇〇万円のうち三、〇〇〇万円については同社の所得として決算報告書に折込み済みであつたとしても、納税者本人の納税義務になんらの影響を及ぼすものではないから、本件の犯情に消長を来すことはあり得ない。その他、被告人香取が自己の非を深く反省していることなど酌むべき情状を十分考慮しても、被告会社を罰金七〇〇万円、被告人香取を懲役六月、執行猶予二年に処した原判決の量刑が不当に重いとは認められない。論旨は理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、当審における訴訟費用は、刑訴法一八一条一項本文により全部これを被告会社および被告人香取に負担させることとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 東徹 裁判官 長久保武 裁判官 中野久利)

○控訴趣意書

昭和五〇年(う)第二〇八九号

被告人

株式会社香取事務所

右代表取締役 香取啓亮

他一名

右法人税法違反事件については、一審で申上げましたように有罪を認めます。但し、一審判決は刑量が重過ぎるので今少し情状を御斟酌頂きたいというのが、この度の控訴の趣意であります。

一、この事件の内容には多くの経緯、事情が伏在しております。之については、一審に於て、安原浩裁判官宛上申書を提出させて頂きました。この上申書の中に、私の主張したいことはすべて述べてあります。今更に、之を変更することはありません。

二、栄興土地開発株式会社代表取締役車谷弘が、当初の約定を守り法人税の申告をしておれば今回の事件はおこらなかつたと思います。道義的に、私は彼を許すことが出来ませんが、この事件の有罪を私は卒直に認めているのであります。

三、一審担当の米沢検事も、この間の事情をよく理解して頂き、上述の上申書も、同検事に前以て提示し、原則的に同意も得、而も同検事に加筆までして頂いた内容のものであります。同検事と話合いの上、右上申書の内容を理解して頂き、之を提出することを認めて頂く事を条件に、一切の異議を申立てないことにしたのであります。

四、この上申書の内容を御了解頂いたとすれば、一審判決は不当に重いと私には考えられるのです。再度御検討をお願い申上げる所以であります。

以上

昭和五〇年一一月二五日

右 東京都品川区西五反田八の二の二

株式会社香取事務所

代表取締役 香取啓亮

千葉市東寺山町九三七の六

香取啓亮

東京高等裁判所

第一刑事部 殿

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